ぐうたらママのナインオール

仕事(臨時職員)と娘(小学5年生)と卓球(趣味)と

あの頃の私たちに届け #「迷い」と「決断」

あの頃、私たちは窮屈な校則と宿題とテストに毎日を奪われていた高校3年生だった。

 

クラスは女子が3分の2を占めるため、男子の存在感が薄い。だからという訳ではないが、ほとんどの女子はお洒落もしない。私もオンザ眉毛の前髪、しかも眉毛ボーボー。必須アイテムは無色透明リップ位だ。

 

その中で、目立つ男子がいた。目鼻立ちくっきり、すらっとしたスタイル。出しゃばっていないのに、どうしても目立つ。目立つのが嫌なのか、奴はいつも斜に構えて態度も冷たい。悪い奴では無いが、誤解されやすい。雰囲気はカッコいいのに影があって扱いにくい。

 

そんなめんどくさい奴と私が文化祭の実行委員に選ばれた。制服のスカートの下にジャージをはいているような無頓着無防備女子の私がだ。

 

放課後の教室で初めての話合い、沈黙。

 

放課後の教室で再び、意見合う。

 

放課後の教室で再び、大笑い。

 

放課後の教室で再び、少しバトル。

 

放課後の教室で再び、真剣。

 

放課後の教室で再び、…いい奴じゃん。

 

そのタイミングで、私の友達が奴の事を好きになった。学校でも一二を争う美人だ。私に奴を放課後呼び出してほしいと言う。

 

心の隅っこがザワザワしたが、断る理由がない。それどころか、応援するよ!頑張って!ヒューヒュー!と冷やかした。

 

晴れて2人は付き合い出す。そりゃそうだ、誰が見てもナイスカップルだもん。

 

私は吐きそうになる数学の公式と、水で濡らしてもおさまらない寝癖と、訳の分からないザワザワと、そんなものと格闘しながら文化祭本番を迎えた。

 

うちの文化祭の規模は小さく、片手間にやってます感が否めない。しかし私たちのクラスは大成功だった。私はそれで満足だった。

 

後日、数名の文化祭リーダーが集まって、ほんの少しだけ背伸びをした打ち上げをやった。私服で集まるのは初めてで、奴がジーンズをはいているのも新鮮だった。

 

その打ち上げの最中、奴は彼女と別れていた事が発覚する。

 

「こいつ、彼女と全く話が合わないって。もったいねぇ、あんなかわいい子!くやしー!」

 

奴の友人が勢いよく暴露したのだ。何だよ、私も知らなかったぞ、キューピッド役なのに。少しイラついた。

 

季節が変わり、受験が近づいて来た。この頃、混み合う電車を避けるために、私は放課後も教室に残って勉強していた。すると、奴が

 

「俺も少しは勉強しよ。居ていい?」

 

と微妙に離れた席で参考書を開いた。真面目に勉強する日もあったし、そうでない日もあった。微妙に離れたままの私たちだった。

 

ある日、私は悩みを口にしてしまった。授業でも何度か出てきたいわゆる同和問題についてだ。

 

就職、結婚で不利益があるという現状がどうして変えられないのか不思議で、そんな固定概念持っている人はバカなんじゃないか、という意見を親に言ってみたら、親は賛成してくれなかったこと。女友達も全否定だったこと。結局バカばっかりで涙が出たこと。私の考えは世間では間違っているのか、分からなくて自信がなくなったこと。

 

すごい勢いで私が話すから、さすがに引いただろうな、と後悔した。

 

すると奴は私の机の前に移動してきて、言った。

 

「お前、すごいね。んとね…、初めて人に言うけど、俺もそういう問題抱えてる一人よ。」

 

えっ。体が固まった。どうしよう。私はえらそうに理想をぶちまける、第三者側の親切づらしたバカやろうじゃないか。

 

あっ。あの。ごめん。

 

謝ってどうする。こんなにも中途半端だったんだ、私。

 

「俺、気にしてないよ。まあ、バカはきっとこれからもおるね。でも、こんな事に反対に負けたくないと思うから、絶対大学行ってやる。負けたくないからちゃんと勉強してる。あ、あんまりしてないか。(笑)」

 

きっと笑い事では済まされない深い思いがあっただろう。それなのに動揺した私に優しかった。奴こそ、すごいなと思った。この日の会話は一生忘れられないものになった。

 

しばらくは放課後の勉強が続き、その流れで駅まで一緒に帰る事が増えた。これって、なんなのかなあ、とモヤモヤしている私がいた。

 

でも数ヶ月後には確実に違う大学、違う土地だ。それを知っているからか、お互い何かを避けるように、歩き続けていた。

 

そうしているうちに冬が来て受験が終わった。私たちは、同じような毎日をこなしながらも、進路や友人や家族で悩み、迷い、決断してきた。いくつかの可能性や希望や挫折の中から、最終的に奴と私はやはり別々の県にある大学に進むことにした。

 

卒業式の日、私は勇気を出して奴を呼び出した。勉強は嫌だったけど、文化祭楽しかったね。大学行っても元気で頑張ろうね。多分、好きだったと思う、なーんてね。と軽く伝えた。

 

奴も笑って、俺の気持ちもバレてたでしょ、なーんてね。と返してくれた。

 

 

                             ●  ●  ●

 

 

それが最後の会話になった。ほんの数年後、奴は…、病で天国へ旅立ったのだ。

 

 

                             ●  ●  ●

 

 

その後私は大学で、差別と偏見についてを卒論テーマに決めた。いや、ずっと前から決めていたのだと思う。奴が生きていたら、読んでもらえたら、何と言っただろうか。お前、すごいね、と笑ってくれただろうか。

 

この世にいないと知ってから、伝えたい事があふれてくる。聞きたい事がまだあったのにと苦しくなる。

 

ああ、いつか同窓会とかで、中年になった姿を披露し合うんだろうなと勝手に思っていた。そしてワインなんぞ片手に

 

「実はさ、あの頃、話を聞いてくれたからこそ、今の私があるんだよ。なーんてね。」

 

と告げてやろうと考えていた。もう、無理だけど。

 

それならば、令和という時代を生きている私から、あの頃の私たちへ。

 

その抱えている悩みや迷いは、無駄じゃなかったよ。しっかりと自分の一部となって、それぞれの決断した道を進むよ。どんな運命が待っていたとしても。

 

 

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久しぶりに思い出して、会いたくなった。少し泣いたよ。

 

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<p>#「迷い」と「決断」</p>

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